とあるクライアントの話。※1
消費財メーカーで、非常に真面目なモノづくりをする会社。
海外展開の歴史も長く、戦後間もない頃からアジア各国に進出。今では売上高の半分以上を海外で稼いでいる。
ただし、モノの良さに依存したがゆえに、どうしても「プロダクトアウト」になりがちだった。
徐々に技術的な優位性が薄くなっていく中で、これからは「マーケットイン」発想へ切り替え、マーケティング活動、特にデジタルマーケティングに注力していく必要があった。
3か月程度、クライアントと共に現場を駆けずり回りながら考え抜いたうえでの、我々からの提言。
「これからはマーケティングを重視しましょう。」
「具体的には、まずプロモーションにもっと投資しましょう。」
「特に、SNSを通じた施策が大切です。」※2
クライアントは大きくうなずいている。
SNSの活用について、それぞれ持論を熱く語り始めている。
それはそうだろう。彼らと共に現場をつぶさに見た上での結論なのだから。
しかし、何か違和感がある。
本当に彼らは実行してくれるのか。
本当に彼らに合った提言なのか。
少々不安になる。
違和感の原因は何か?
それは彼らの「服装」。
SNSについて熱く語る彼らが着ているのは、作業服。
製造部門スタッフだけでなく、企画部門・営業部門、全てのスタッフが着用している。
会社の場所も郊外で、工場と併設。
マーケティングやSNSという言葉から想像される雰囲気とは、程遠い。
だからと言って、作業服を脱いで、街の中心に引っ越せば良いのかというと、そういう訳でもない。
作業服は、モノづくりを大切にしてきた彼ら「らしさ」でもある。
それを消すと、強みも同時に失われてしまうようにも思う。
新しいことは、常に苦労を強いる。しかし、いくら苦労しても身につかない場合もある。
定着するかどうかは、煎じ詰めれば、その会社「らしさ」に合っているかどうかによる。
ただし、その会社「らしさ」を重視しすぎると、結局何も変わらない。
どうすればよいか。
例えば、新しい服を買うとき。
普段自分では選ばないけれども、店員さんから薦められて着てみると、意外に似合う、ということがある。
「新しい」けれど「自分らしい」状態。
勿論、その服を着て友人に会ったりするのは気恥ずかしいし、慣れるのに少々時間が掛かる。
でも、その服を着ると明るい気持ちになる。着ているうちに、徐々に自分自身も変わっていく。
新しい「自分らしさ」が生まれていく。
それは単に流行りを取り入れるとか、そういうことではない。
むしろ、流行りの服を単に着ているだけだと、少々「イタい」感じに見える。
それは、その人の「らしさ」を無視しているからだろう。
「新しい」けれども、その会社「らしい」。
そんな提言を、いつも探している。
※1.この記事は、守秘義務の観点から、複数のクライアントのエピソードを混ぜて、一つの記事にしています。(それぞれは実話です)
※2.実際に行った提言は、より具体的なものですが、記事の性質上、また守秘義務の観点から、簡略化しております。
このシリーズでは、oririのコンサルタントが、日々のプロジェクトの中で書きつけた「気づき」を、思考のプロセスごと、できるだけそのままの形でお届けします。
コンサルタントはどのような視点で見つめ、思考しているのか、資料やプレゼンテーションに加工される前の「気づき」という考えの種から、
「あたらしさ」のヒントや「らしさ」を見つめなおすきっかけが見つかるかもしれません。
ご参考)経営を、「らしく、あたらしく」。Originality開発の方法論