【2021/7/28実施】新規事業について考える会#1 開催レポート

執筆者 | 2021年08月24日 | 未分類

新規事業開発のために様々な調査をして企画書を取りまとめることは、多くの会社で行われていることです。

ところが、「誰が、その事業に、人生を懸けて取り組むのか」という問いが劣後になってしまい、事業立ち上げの速度と力強さが不足することは少なくありません。

必要なのは、「(会社からの指示に基づく、作業の)担当者」ではなく「(内発的動機に突き動かされた、事業の)企業家(アントレプレナー)」ではないでしょうか。

新規事業について考える会#1 では、アントレプレナーの発掘と支援に取り組んでいるベンチャービルダーReapra岡内さんの経験をお伺いしながら、社内のアントレプレナーシップに火をつけることについて考えました。

(編集協力:Reapra)


oriri月例オンラインイベント「”新規事業”について考える会」とは

▼概要
企業が新規事業に取り組む意義は、成熟した経済環境において新たな収益成長の柱を建てることにとどまらず、会社全体としてのバイタリティを維持しようとすることでもあり、既存の活動や組織に新たな風を持ち込み全社変革への契機を得ようとすることでもあります。

この月例オンラインイベントでは、企業経営者・新規事業責任者・専門家などを招き、 あたらしい事業をつくり・成長させる ことについて考えていきます。

▼8/25(水)18時~:第2回「デザイナーと考える、事業・組織の創造性の開発」

申込はこちらからhttps://peatix.com/event/2715294


登壇者プロフィール

岡内 雄紀 | Yuki Okauchi
Reapra (株式会社リープラジャパン)マネジャー
株式会社Torch 共同代表

独立系コンサルティングファームに入社後、大手企業の構造改革や事業再生、PMI、新事業創出、経営人材育成等に従事。

その後、HR系スタートアップにて事業責任者、CHROを経験。 企業の持続的・自律的成長を目指す活動に関わる。現職では、投資先の経営支援を担当。成人の知性発達に関する知見も有する。

2021年よりTorch Inc. (Reapraとoririによる共同事業) 代表。

小川 達大 | Tatsuhiro Ogawa
株式会社コーポレイトディレクション(CDI) エグゼクティブコンサルタント
oriri(CDIグループカンパニー) 代表
株式会社Torch 共同代表

東京大学法学部卒。

株式会社コーポレイトディレクション (CDI)入社後、ベトナム事務所立ち上げ、シンガポール駐在を経験。全社戦略、アジア展開、新規事業開発、M&Aなど、さまざまな経営テーマに関するコンサルティングに従事。

2020年よりCDIグループ内の新カンパニーoriri代表。

2021年よりTorch Inc. (Reapraとoririによる共同事業) 代表。



Reapraの考える産業創造のアプローチ

岡内:

私の所属するReapraは、アジアをメインマーケットとしたベンチャービルダーとして、産業創造の旗手となる起業家を育てることに注力しています。

産業を創造するアプローチ探求のため、これまで投資先の支援を通じて起業家個人とビジネスの両方が長期的に成長できるよう研究と実践を行ってきました。

これまでの研究実践の成果からReapraでは産業創造において、ビジネス領域を指す環境要因と起業家が自分自身に向き合う自我要因の2つが大切であるという信念を持っています。

環境要因の部分では、私たちがPBF(プロミッシング・ビジネス・フィールド)と呼んでいる、産業の複雑性から現在は小さいが、将来は伸びるだろうという領域を選ぶことが重要であり、一方で自我要因の部分では、起業家自身が環境の変化に身をさらしながら、自己の変容を伴う学習を通じて産業を創造していくことが重要だと考えています。

起業家がPBFを見据えながら、足元の事業や環境の変化を捉えながらしなやかに学習・変容していく歩みをマスタリー(熟達)と呼んでいます。

ここで私たちが「熟達」と呼んでいるものと、「熟達」という言葉を聞いて一般的に想像されるものは少し違うかもしれません。例えば、あるスポーツを熟達しようとする場合、ある程度ルールが決まっている環境の中でスキルをマスターしていくと思います。PBFのような領域はそのようなルール自体が未だ存在しないあるいは変化していくので、時間とともに顕在化する変数を取り込みながら、ある意味、起業家自身がルールを作りながら熟達していくことが重要になると考えています。

このPBFという環境において事業・産業をつくっていくために、我々は起業家の学習を重視しています。ここでいう学習とは、従来の学習とは変わってくるのではないかと思っています。

昔ながらの学習は「教授型」と呼ばれたりしますよね。将来予測がある程度可能で、成功要因を予め設定できるような環境の中で適用されうる学習スタイル、一定の正解があるという状態です。

一方で、PBFのような不透明な環境下での学習は、事前予測が不可能で正解がありません。故に、「自分たちが実践し、その結果をもって学ぶ」この試行錯誤のサイクルを回すしかありません。そのような研究と実践が回るような学習スタイルをReapraでは重視しています。

とは言え、研究と実践のサイクルを回す学習スタイルを継続することには難しさがあるのは事実です。私たちは、その難しさの根底にあるものは何なのかについても探求してみました。そこで見えてきたのは、私たちの理想とする学習サイクルを継続していく上で障害となり得る存在として、個々人の中にある「無意識のバイアス」に向き合い、起業家自身の変容を支援するということです。ここの部分は、もしかすると新規事業に取り組んでいる皆さんにも役立つのではないかと思い、もう少し詳しくお話しさせていただきます。

お話しした通り、我々が大事にしていることとして、起業家自身の無意識のバイアスと事業や組織の関係性ということがあります。

そこに自覚的になることが事業、組織、ひいては産業を作ることにおいて大切と考えています。

図にあるように、人間の中には意識領域と無意識領域が存在します。

人間は無意識に「これが好き」とか「あれが嫌だ」とか、反射的、無自覚的に意思決定してしまうことがあると思っています。この自分には見えていない自分の一部(無意識領域の自分)のことを「シャドウ」と表現する心理学者もいます

例えば、起業家が事業のミッション・ビジョンを策定する際、「何を解決すべき社会課題と定義するか」「どのような長さで時間軸を設定するか」という点で無意識のバイアスが表出する場合があります。

起業家によっては、現在のマーケット環境に鑑み、今の時点で顕在化している社会課題に対する戦い方が無意識に念頭に置かれてミッションやビジョンを規定している場合もあるのではないでしょうか。知らず知らずのうちに「現在」を重視するからこそ、長期で変わりゆく可能性がある「変化」について盲目的になってしまうことがあると思っています(図の上側を参照)。

これを「起業家自身の在任期間を超える程の長期的な視点で見てみる」ことで、世代を超えるような社会課題の時間的な変化に注意深くなれるだけでなく、組織としての学習力を高めなければそれらは解決されないという意識が生まれるなど、見えてくる景色が変わってくるように思います。

意識領域にある顕在化しているものに興味がある人は、そこばかり見てしまうものです。潜在的なものを見ることが苦手な場合、時間とともに顕在化する領域が盲点になりがちです。

「組織マネジメントの優先順位」においても、無意識に起業家自身が重視している組織の重心がマネジメントには反映されうると思っています。例えば、ある事業において勝ち筋が見えた場合、その徹底のみに意識を集中してしまうと、勝ち筋と思っていることに背景にある微細な構造変化に盲目的になってしまい、それ自体を否定をすることや、新たな可能性を模索する探索行為が捨象されがちです。このようなバイアスが評価制度や意思決定基準に影響する可能性があるかもしれません(図の下側を参照)。

バイアスと事業の関係性

小川:

これは起業家のバイアスというものが、ミッション設定だとか市場・競合相手の見え方、あるいは社内のメンバーに対する接し方とか見え方に、知らず知らずの内に色濃く反映されてしまっているということですね。

岡内:

そうですね。例えば、小川さんはコンサルティングの経験の中で、プロジェクトマネージャーによって、チームの色や、重視するデータ、プロジェクトの進み方が変わってくるような場面はありますか。

小川:

ありますよ。

プロジェクトマネージャーに限らず上司が大事にしていることが、プロジェクト全体の先行きを大きく左右するのはよくあることです。

多くの場合、無意識とかバイアスに影響されていることを誰も自覚してないケースが結構ありますよね。

岡内:

成果を安定的に出せる人は、自身のバイアスを自覚しているため、メンバーにフィードバックをもらったり、クライアントとすり合わせたりすることができると思うのです。しかしそうでない人は、独自のやり方で進め、方向性がずれてしまったり、チームメンバーやクライアントとの不一致を引き起こすようなことがあると思っています。

それはスタートアップだけでなく、大きな組織においても生じるものだと思います。経営者やリーダーの価値観が組織の判断基準や文化などに表れ、必ずしもポジティブな形だけでなく、ネガティブに作用している場面を参加者の皆さんも思い浮かべられるのではないかと思います。

我々は当初、起業家に対して機能的なスキル提供を提供を行っていたのですが、そこに限界を感じました。もっとその人の思い込みや裏にあるもの、つまりは個人や組織のOSの部分に踏み込んでいくことが、動的に変わり続ける社会課題に注意深くなって自らを変化させていく土壌を共に築き上げていくためには必要と感じるようになりました。

小川:

チームのプロジェクトメンバーに当てはめても、だんだん賢く学習していくので、あの上司の場合はこういう学習をした方がいいよね、という風になってしまう。気づかないうちにこのチームはこういう学習、この部署はこういう学習というのが、よくも悪くも起こってしまいます。

岡内:

表出している要因に無意識に揺らされるのではなく、プロジェクトの目的に立ち返り、長い時間軸や広い構造で捉え直してみること。どうしたら本当に長期で意味のあるプロジェクトになるのかを考えてみることが大切ですよね。そして、考えと実際に起きたことを照らし合わせて振り返り、自身の無意識のバイアスを見つめ直すことで、自己変容を通じた学習を続けられると思います。

バイアスの起源と向き合う

岡内:

バイアスの作用について、これまでの経験に基づいてお話ししたいと思います。

バイアスは、幼少期の意識が芽生えた頃に、このようにしたら褒められるという報酬、こうしたら叱られるという回避、などの経験を親や養育者との関わりから無意識に形成されます。この起源を自覚することが大切だと思います。

必ずしもバイアスは悪い存在でなく、ネガティブにもポジティブにも作用します。たとえば、幼少期に親が求めることに応えなければ十分に愛情を受けられなかった。言い換えれば、親が示す基準を超えなければ報酬を得られなかった体験から、人の要求に応えることに過敏になってしまうバイアスが刻まれている方の場合、相手のリクエストにいち早く応えることに人一倍意識を向けてしまいがちです。

これがポジティブに作用すると、他者の状況・心境に対して敏感なセンスが働き、相手に丁寧に寄り添うことができるように思います。

ただし、他者からの要求が明確でない環境、自ら基準を定めて進まなければならない状況だと、拠り所を失い、ビジョンを打ち立てられない、慎重になりすぎるといったことが起こり得ます。ビジネスのスピードや思い切ったジャンプをする施策を打ち出せないことにつながる可能性もあります。最悪の場合、他者の要求を満たせずに報酬を得られない状態に疲れ、精神的に参ってしまうことも起こり得ます。

他にも、小さいときから家族を支えなければいけないといった、いち早く精神的・経済的自立を求められる環境に置かれた方は、バイアスとして「自立」への強い意識が育まれていることがあります。この自立のエネルギーは、学生時代には競争に勝つ源動力になったり、早期にマネジメントポジションを得る、ないしは起業するといった力にもなり得ます。

社会の中で自立するためには、明確に自分の意見を組み立て、伝え、周囲から有用性を認められることが必要です。その結果、明確で強い、自立したメッセージを発信しステークホルダーを巻き込むスキルが高まっていくように思います。

その一方、自分の成功体験を基盤とした自立を無意識に相手にも求め、それが相手にとってはプレッシャーになってしまうこともあるのではないでしょうか。その影響として、他者への寄り添いに盲目的になってしまい、曖昧な環境下の中で起きた事象を構造的・端的に伝えきれないメンバーに対し、明瞭さの不足やスピードの遅さにイライラしてしまい詰めるような事態も起こってしまう。メンバーにも自分と同様の自立を求めるあまり、本来であれば曖昧さを許容しながら寄り添って話し合う必要のある懸念事項やリスク要因を知らずのうちに押し留めてしまう可能性があります。

リーダーのバイアスというのは強いエネルギーになる一方、同時にブラインドスポットを生み出すことにもなるため、自己批判的に自分を省みることができるかが大切になるということですね。

自分を省みることは単なる自己啓発の一つ、と捉えるのではなく、作りたい産業・事業に照らしてそれがどのように影響する可能性があるのかといった長く・広く・深い営みと捉えることかと思います。長期に見て自我が環境にどう相互作用しうるかを考えることで、活かせるものはより活かし、苦手なものはより自覚的になっていくことができ、それに向き合いながら自らの包容力を高めていくことが、実現したい未来に近づく道ではと考えています。

小川:

一般的にはバイアスという言葉はネガティブな印象を与えがちかなと思うのですが、ここでの意味合いとしては両方あるということですね。

岡内:

そうですね。Reapraではバイアスのことを「らしさ」とも呼んでいます。「らしさ」という言葉には、うまくいかせるところと反作用するところがある、それを自覚して経営者/起業家の方が向き合って頂くことが大切というメッセージを込めています。

Reapraでは起業家支援をする際に、その人の持っている「らしさ」を一緒に紡ぎ出していく対話を行っています。

これには相当深い対話をする必要があります。その人自身がどういう幼少期を過ごしてきたのか、幼少期のバイアスがどのようにエネルギーとなってこれまでの人生の成功体験を築いてきたのか。同時に、どのような壁にぶつかり、失敗体験をしてきたのかについても振り返ります。どのような成功・失敗体験から、どういった「らしさ」が形作られたのか。また、どのような時に、その「らしさ」による限界を感じたのか、ライフストーリーを共に探っていきます。

これらを通して、起業家自身のバイアスを特定するとともに、実はそのバイアスによって抑え込んでいた「願い」も探求します。先ほどお伝えした、相手の要求に答えなければならない、というバイアスを強く持つ方の裏側には、実は要求に応えなくとも自分を受け入れてほしい、そして相手をそのままに受け止めたいといった願いが隠れていることがあります。ここを丁寧に見ていくと、実は大きなエネルギーが溜まっている場合が多いです。その人の「願い」に丁寧に向き合い、言語化していく、これをライフミッションの紡ぎ出しと呼んでいます。ライフミッションとはその人が、人生をかけてどのような願いやテーマをもって生きていきたいかであり、学習を進める際の原動力になるものです。

このようにして紡ぎ出された個人のライフミッションと、長期で顕在化しうる世代をまたぐような社会課題とをかけ合わせて、起業家の方とどういう産業・事業を作っていきたいかを考えていきます。また、自身が経営者の任を終えた後も組織が長い時間を掛けてどう社会に向きあっていくか、この考えを結実させたものをコーポレートミッションとして設定しています。 「らしさ」の特定は、産業・事業作りのフェーズでのみ役立つのではなく、会社を運営していく上でも重要な役割を果たします。自分のバイアスがどういう風に自身や組織において課題を引き起こしそうかを探ります。常に自分と向き合いながら、自身のバイアスと組織への繋がりに敏感になり、双方を成長させることへの土台を作るイメージです。

通常の事業活動の中でうまくいったとき/うまくいかなかったとき、どのように自身の「らしさ」と繋がりがあったのかを振り返っていただきます。さらに、そこで内省した内容を事業の戦略や戦術アクション計画に繋げてもらう。このようにして起業家が自覚的に自己変容を促す支援をしています。

新規事業におけるバイアスと向き合う必要性

小川:

この辺りは多分スタートアップに限らず、会社の中の新規事業でもよく起こることなのでしょうね。例えば、営業で評価を得ている人が、新規事業部門に移ったときに、何か困難が起こると、営業を頑張ることで対応しようとする。実はそれ以外の、プロダクトを改善するなどで突破できるかもしれないことが、バイアスによって、見えない状態になっているケースがありそうですね。

岡内:

大企業の場合には、そういったバイアスが過去の経営者や、上の役職の人、その他いろいろな要素で作られると思っています。それらをうまく紐解きながら進めていくことが重要だなと思います。

小川:

一旦まとめとして、Reapraでは複雑性というキーワードの元、一筋縄ではいかない状態の中で、比較的長い時間軸を持ってビジネスを作っている企業を支援している。このような企業は、不透明な環境の中で自己変容させながら学習を継続していく必要がある。学習していく中ではバイアスやライフミッションという、盲点になりがちな部分に自覚的に向き合う必要があるというお話しだったかなと思います。

そうした時に、本当に企業内でも学びが得られるのかが気になってくるところです。参考になる部分はありつつも、一方で新規事業担当として社内異動があった時に、上司と面談があって、幼少期の話からする企業はなかなかないと思います。確かに参考になりそうだなと思う部分と、少し違うのかなと思う部分がありそうです。

今回、新規事業を企業の中に作っていくと考えた時に、どのあたりにReapraの学びが適用されるのかなと考えた時に、ステップを描いてみました。

例えば、最初は新規事業担当の人が任命されて、それに並行して事業のテーマが選定をされる。そのあと、具体的な事業案や事業計画が作られて、場合によっては役員会での承認というプロセスを踏む。そして、POCのような実験的な取り組みなど、スモールスタートで始めていく。その中で事業案をどんどん改善していき、事業を拡大していく。多くの場合、既存の経営資源をどう導入していくかという議論も行われます。

それらの過程を、大きく3つのカテゴリーに分けると、①始め方②事業をどのように進化させていくのか③社内の経営資源の巻き込み方の部分があると思います。

私が新規事業担当者の方とお話しさせてもらう中で、いつもこれが大事だなと思うのが、③社内の経営資源をどのように巻き込んでいくのかという部分です。

大体新規事業担当者の方って、社内で孤独なんですよね。その方が新しい事業を作って、会社の何らかの経営資源、人もあるでしょうし、金、お客様との関係というものを導入したいと思っても、社内の協力が得られない。場合によっては経営陣の理解が得られないというのはよく聞く課題です。

比較的うまくいっている方にお話を聞くと、まさに社内の経営資源を巻き込んでいくという部分はうまくいっているんですよね。

そうした時に、先ほどお話しがあったような、継続的に学習していくだったり、複雑性の中から見出していくだったりというところから学べることはないだろうかと思っているのですが、いかがでしょうか?

岡内:

新規事業担当の方と既存事業担当の方が相容れないというのは、よくある話かと思います。ただそういった中でも、うまく橋渡しできている方は、関係性作りが上手いのだろうとと思います。この関係性を形成するものは何かというと、新規事業と既存事業の事業の中で起きている共通点をきちんと理解し、擦り合わせることだと思います。

既存事業と新規事業の両者に合意できる部分は、会社のミッションなどの大前提やアゲインストな外部環境認識があるように思います。

ただし、時間軸を短期に捉えてしまうと、既存事業の方にとって新規事業を進めることは自らのリソースが取られることになってしまう、言い換えれば短期目標を達成できないリスクが高まることことと認識されることがあり、ここでズレが生じるのかなと思います。

こうした場合に、時間軸を伸ばす、環境認識の幅を広げるといった視点移動を伴いながら、大前提の合意から始め、小さな取り組みができるかが大切ですよね。

小川:

いわゆるオフィシャルな承認を取るというプロセスの中で進めるとすると、どうしても時間軸が短くなったり、共通している部分と差異の部分でいくと、むしろ差異の部分に目がいってしまう。結果、経営資源をうまく活用することができなくなってしまうというのはあるのかなと思います。

岡内:

バイアスのお話と絡めてご説明すると、個人だけでなく組織に蓄積されたバイアスに敏感になることだと思っています。現在の会社が置かれたポジションは、どのような環境下における、どのような意思決定の積み重ねの結果なのか。その意思決定には、何かしらの組織の力学により失敗した、もしくは盲点となって検討の俎上に乗らなかったことが影響しているのか、このような点に注意深くなることかと思います。スタートアップのような比較的組織が小さい場合には、起業家のバイアスが特に色濃く影響を及ぼしますが、大企業の場合には長い歴史と、多くの関係者が相まって複雑な形でバイアスを形成しているように思います。

組織のバイアスは中にいる方々にとっては対象化することは難しいものです。ただし、それに自覚的になるために、意図的にローテーションを増やす、外部接点を増やす、中途採用等の異なる視座を持った方との接触を増やすといった取り組みをされている会社も多いと思います。

会社によっては組織に横たわるバイアスについて語ることはタブー視され、過去や上位職の批判と受け取られてしまう場合もあるかもしれません。

個人的には新規事業を起こすという行為は、ある意味で組織に蓄積されたバイアスを対象化する、動かす機会となりうるように思います。

新規事業と既存事業に関わる方で、相互に先程申し上げたような大前提をすり合わせ、新事業シーズを前進させるという論点だけでなく、間接的に組織バイアスに影響を及ぼしていくような関わり方を模索していくということができれば、企業自体を変革させていくことにまで繋がる活動となっていくように思います。

小川:

組織のバイアスというのはきっと、とても強いのでしょうね。個人のバイアス以上に長い時間をかけて積み重なっているものもあるはずなので。

例えでいうと、営業活動に強みがあって、それによって大きくなった会社があった場合に、その会社は営業よりもむしろプロダクトの作り込みがポイントになってくるかもしれません。まるで文化が違うと。このような場面では自分たちが強みとして持っているバリュー・ものの見方というものに自覚的になって、長期の時間軸では両方の見方を共存できる状態になった方が良いという合意を取るべきでだと思います。共存している状態を許容していく。これはコミュニケーション上とても大事そうですね。

岡内:

「うちの会社のバイアスここなんだよね」というように、どうしても人は会社の課題にフォーカスしたくなるじゃないですか。

そうした時に、自分自身もそのバイアスの中に加担しているという認識、言い換えれば自分も含めたシステムであるという部分を理解し、どう変えることができるのかを考える。もしかしたら、ご自身のメンバーとの関わりもあるかもしれないし、他部署とのコミュニケーションかもしれないし、少しずつ関わる人たちをナッジしていく。そういった取り組みが特に新規事業に取り組む上では重要になってくるのだろうなと思います。

小川:

新規事業担当者が陥ってしまう悲劇があるとすると、よくあるのは、会社が理解してくれない、もうこの会社ダメだと離れてしまうという場合だと思っています。その中で、自分もシステムの一部とすると、どのようにすれば新しいものの見方を自分が中心になり、会社に広げていくことができるのかというのを試行錯誤していくということなのかもしれないですね。

岡内:

自分のバイアスのこの辺が、コミュニケーションにおいて邪魔をしているということを認識する。そうした時に、うまく動いてくれない相手がいた時に、その人はどういうことを大事にしていて、逆に何が盲点でというのを小さな会話の中で理解しておくと、それを踏まえながらちょっとずつ相手のバイアスに触っていけると思います。このようなハイタッチなコミュニケーションも大事になってくると思いますね。

小川:

自分としても耳が痛い話ですね。

会社の姿勢に憤るといのは、自分自身が変わっていないということの裏返しかもしれないですね。

岡内:

自分自身も含めて、まだまだできていない部分はあると思うのですが、ただ、そうやって自覚することが大切なように思います。内省的なメンバーを徐々に増やすことが新規事業を作ること、既存事業を変えることの双方に必要なように思います。

小川:

先ほど複雑性という話をいただきましたけれども、マーケットが複雑であるということはもちろん、同時に、会社の中の新規事業でいうと社内もとても複雑なシステムです。それを学習しながら、ちょっとずつ前に進めていく。会社全体をかえるように働きかけをしていく。そういうサイクルを、時間をかけてチャレンジに取り組んでいくことが大事なのでしょうね。

Torchの目指す世界、それに向けた支援

小川:

いわゆるスタートアップの世界とは若干違うかもしれないですが、企業の中にも新規事業があり、アントレプレナーシップは宿るのだろうと我々は考えています。

いろいろな調査をして、プランニングをして、プランニングが整ってから始めようということよりかは、不確実な中で考えていく、あるいは場合によっては走ることそのものが考えるということであるというくらい実践の中からいろいろな学びを救い上げていく。

そして、そういう取り組みというのが会社全体の考え方をアップデートしていくことにつながります。おそらく組織としても、いろんなバイアスが積み重なっているため、組織としてのバイアスを突破するきっかけにもなるのではないかなと思っています。

私たちとReapraで一緒に事業に取り組んでいます。

Torchという名前を付けておりまして、アントレプレナーシップというところに火をともしていけるようなきっかけになればと思っております。

経営コンサルで培ってきた、事業・組織をどのようにして良くしていくかという話と、起業家自身、今回でいうと新規事業担当者自身の自己変容、より懐が大きくなっていくところについても伴走することができればなと思っています。

ご関心のある方は、お気軽に問い合わせ頂ければ幸いです。

株式会社Torch