Sketch by oriri. 未来を拓く(ひらく) 経営者 〜疾風に勁草を知る

執筆者 | 2020年05月28日 | Sketch by oriri.

突然やってきた濁流のなかで、なんとか乗り切るための策を総動員しながら、同時に、その先の未来を虎視眈々と見据える経営者がいる。

COVID-19は、世界の進む方向をガラッと変えるというよりは、いずれ来るであろう「未来」の到来を早めるものであると、私たちは認識している。労働集約的産業の行方、デジタルとリアルの線引き、経済と公共のバランス、効率と耐力のトレードオフ、グローバルとローカルの統合、働き方と生産性など、今回の事態を受けて議論が活発になっているテーマは、日本や世界が本来的に抱えていた課題群である。我々人類が乗っている列車は目的地は変えずに、その速度を上げた。

その結果、世の中の様々な均衡が崩れ、そこに「真空」が生まれている。そこは、いかなる生物も生きることができない危険領域であるが、同時に、様々な物質とエネルギーが流れ込み新しいもの(=次世代の当たり前)が生まれる淵源でもある。新たなる均衡に向けた牽引役になるべく、構想し行動する経営者がいる

私たちは、企業を、経営者を、信じている。

経営コンサルタントだから。


このシリーズでは、社会経済や産業などのマクロを分析したり、汎用的な枠組みを提案したりするのではなく、1つ1つの個別ケースに光を当てることで、そこにある「『らしく、あたらしい』経営における手触りや体温や息遣い」を見つめ、そこからの気付きを掬い上げたいと考えています。

ご参考)経営を、「らしく、あたらしく」。Originality開発の方法論


Case1 変化を読み取り、改革を加速させる。「揺るがぬ信念」で力強く歩み続ける

Case2 “震源地”の中国で、激震を機会に。「己(おのれ)」を見つめ、前を向く

Case3 危機が常識を壊し、想像力を呼び覚ます「第2の創業」に向けた意識改革

Case1
変化を読み取り、改革を加速させる。
「揺るがぬ信念」で力強く歩み続ける。

地方都市の主要駅から車で1時間離れた山の中に本社を構え、70歳を超える社長が采配をふるうA社。

「不謹慎だが我々のやってきたことが、理解される時代がやっと来た」

本業以外にも幼稚園経営を行っているA社。社長は、子供を幼稚園に通わせる母親達が、隙間時間に在宅で働ける環境作りを長年のテーマにしている。

そのために、子会社を設立し取り組んできた。しかし、その活動はどこか“CSR的”・“慈善活動的”に捉えられがちであった。

その折、今回のCOVID-19で日本中がリモートワークを強いられる状況になった。社会が混乱する中「今までの取り組みが、ようやく偏見なく真価が理解される環境が整った」と、社長は好機と捉える。働く母親達も、これまで社内業務の一部を担う側面が多かったが、社会の変化に伴い、今後はその能力をより活かして社外からの仕事を請け負うことも見据えている。

「完全リモートの営業体制を作ろう。この構想が出来れば、誰も成しえていない偉業になるはずだ」

一方、本業であるスポーツ関連の事業は、COVID-19の影響で新規営業活動を行えていない。その逆境の中でも社長は、上記の働く母親達のリモート戦力化を機に、更には自社の体制の再構築にまで手を付けようと言っているのだ。

「史上最少人数でのIPO」という目標に向けて、構想を語る社長の目は輝いている。これからA社は、組織や機能をモジュール化・リモート化し、地域や雇用形態に囚われず優秀な人材を集められる体制の構築を目指す。

What I think.

未曾有の事態に陥ったことで、理想・信念に基き愚直に取り組んできたことが光輝いてくる。そして、腰を据え取り組んできた社長は、この逆風下でも更に歩を進めようとしている。
今回の一連の社長の振る舞いを見ていると、ある営業会議での社長の一言を思い出す。営業担当から「新製品の反応が顧客から芳しくない」という報告を受け、社長は「この製品は必ずプレイヤーのためになる。プレイヤーに分かってもらうまでには時間がかかるのだ。」と言った。様々な変化・未来に対する情報に過敏になっている今だからこそ、“曲がらないもの”に、私は感銘を覚えるのかもしれない。

阿部 紘之

Case2
“震源地”の中国で、激震を機会に。
「己(おのれ)」を見つめ、前を向く。

90年代より中国に根を張り、展開してきたB社 。

「仕方がない。寧ろ今が、立て直しの好機だ」

オフライン営業が中心のB社は、中国事業の戦略・体制改革の推進中にCOVID-19に見舞われた。

彼らにとって市場の急停止は、事業の急停止を意味する。しかし中国法人の社長は、これを好機と捉えて戦略・体制の改革を加速させた。

「社員が物理的に動けなくなったので、自分だけでなく、経営幹部から現場のリーダーレベルまで、目の前の活動から目線を上げて自分で考える時間もできた。“指示待ち”から“考えて動く組織“への脱皮のチャンスかもしれない」。

試行錯誤の末、日本市場と異なるビジネスモデルに辿り着いたC社。

「コロナ特需だが、満足していない。現地化に本気で挑もう」

一方のC社は、中国市場ではオンラインを中心に展開する消費財メーカー。今回のCOVID-19では、いわゆる“巣ごもり消費”の急拡大で特需に恵まれている。

しかし「満足していない」と中国法人の社長は言う。「積年の経営課題であるブランド現地化が途上のため、特需を取り込む販促を徹底できなかった。また、刻一刻と変わる中国市場の状況に合わせた施策を、本社に理解してもらえなかったことは、本社との共通認識のなさを浮き彫りにした」と語った。

コロナ特需は、彼にとって、腰を据えた戦略転換の必要を痛感する機会となった。

What I think.

あたかもCovid-19の「禍福」を体現するように、異なる状況に置かれている2社。しかし、両社とも、未曽有の危機/機会を、自らの意志を確認する契機とした上で、理想に向けて着実に歩みを進めている。
自らの理想実現への強い意志こそ、経営の原点であることを、両社には改めて気づかせて頂いた。

是枝 邦洋

Case 3
危機が常識を壊し、想像力を呼び覚ます。
「第2の創業」に向けた意識改革。

創業から30年を超え、 変わらない業界で、変わり続けることにこだわるD社。

「やってみないと分からないことでも、今しかやれないことを仕掛けよう」

流通事業で、幅広い商材を取り扱うD社は、革新的な取引システムによって業界を変えてきたイノベーターである。 創業30年を超え、次なるイノベーションの創出(いわゆる「第2の創業」)が最重要経営課題であった。

今回のCOVID-19は、業界全体を「勘と経験が効かない世界」に変えてしまった。しかしこのことが、D社においては、業界の常識(≒自社の常識)から自由に議論する素地となった。「とにかく仕掛けていこう」とトップが号令をかけつづける中、社員は徐々に(無意識な)制約から解放され、いつもとは違う発想で考え始めるようになったのだ。

「実は前から、この業界はこう変わっていくべきだと思っていたんです」

COVID-19を受け、日々D社の取引先から様々な悩みの声が入ってくる。「主要な販売先が急に止まってしまった」「相場が崩れてしまって、仕入れと販売をどのように計画すればよいかわからない」「対面の取引は避けたいが現物が確認できないのも困る」 ・・・

取引先の声を事業機会にすべく、対策チームが立ち上がった。

当初は「これは過去にもやったが失敗した」「とはいえ、保守的な業界慣習があるからなぁ」などの、保守的な発言が多かった。しかし、喧々諤々と議論しているうちに様相は変わってくる。「今だったら、先進的なサービスも利用されるのでは」「やってみないと分からないな(やってみない?)」「一旦ゼロベースで進化した後の世界を考えてみようよ」など、不確定性の高い領域にもチャレンジしていく、意志のようなものが見えだしたのだ。COVID-19対応という特性上、とにかくスピードが求められたこともこの変化を後押しした。

思考上の制約から解放された社員たちは、徐々にではあるが、自由に「業界と自社のあるべき姿」を構想し、発言するようになった。実際、これまでのD社からすれば、圧倒的な短期間のうちに施策が取りまとめられ、取引先からも良い反応を得た。次世代のリーダー達の中には、「やればできる」という自信も芽生え、むしろ組織の活発さが増しているように見える。

What I think.

「第2の創業」は事業承継の難しさと並ぶ永遠のテーマだが、この本質は、組織に失われた「想像力」を取り戻すことの難しさと言うことができる。
COVID-19への対応というテーマが、組織に「想像力」を取り戻す契機と捉えることができれば、大逆風下の現状も、違った景色に見えてくるかもしれない。

藤本 隆介